宗教&インテリジェンス(旧harmonyのブログ)

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歴史的大転換とは如何なることか?

1.第二次大戦前・後の驚くべき変化


中国が崩壊に向けて急進し、異端児トランプが世界を変えようとし、イギリスはEUを離脱しました。今、世界は、歴史的大転換期に突入しました。今回は、第二次大戦を例にとり、歴史における大転換とはどんなものであるか考えます。51年前の1969年に書かれた、国際政治の古典的名著である、フレデリック・シューマン著『国際政治』の一部分から論じます。




   
『国際政治』は、国際政治・経済を学ぶ者ならば知らない人はない入門書ですが、一言でいって、面白い本です。スケールが途轍もなく大きく、序章の「人間の条件」は、1.「空間と時間について」で宇宙論、2.「この人を見よ!」で人類の黎明、3.「政治の起源」で文明の始まりと政治、4.「イメージメーカー」で哲学、宗教、5.「いずこへ?」で現代と未来の問題、を論じ、次の第一部は「歴史」で、これまた、スケールの大きな歴史論を展開します。この本を読めば、国際政治は大きく捉えるべき、ということが嫌でも理解できます。





同書の第3章の「3.西洋の没落」で、戦後冷戦期の国際政治が成立した説明で、第二次大戦とその後の世界がいかに劇的な変化を遂げたか、ユニークな記事を引用して強調しました。それが以下です。





P.108-P.112 〈国家関係のみ抜粋〉


1945年以降の時代の変遷は、人心を困惑させるものであったが、この時代の推移はこれから本書の多くのページで取り扱う。現代のパラドックスは、『ニューヨーク・タイムズ』紙のラッセル・ベイカー記者が、1945年から20年たった1965年5月9日付のコラムで、 ー  次のように巧みに描いている。




ワシントン、5月8日 ー 第二次大戦の最後の砲声が収まった後、 ー  ひとりの男が、ある夜、タイム・マシーンから現れて、召集解除を待つ兵舎一杯の兵士たちの中を歩き廻った。


    
   
「この戦争の目的は何だったのか知っているか」と彼はひとりの兵士にたずねた。兵士は答えた。 - 「我々は大英帝国を救うために戦ったのだ」。訪問客はいった。「それじゃあ、あなたは負けたことになりますよ。大英帝国は、今から10年以内に、アメリカの強要によって解体されるでしょう」。




水兵はいった。「あなたはナチの宣伝家のような話し方をしている。あなたはわれわれとイギリス人にくさびを打ちこもうとしている。その次には、われわれとわれわれの偉大な同盟国ソ連の仲を裂こうとするんだろう」。




訪問客は答えた。「今から5年以内に、あなたたちの中で彼らを〈われわれの偉大な同盟国ソ連〉と呼ぶ者があれば、反逆罪で起訴されるようになるでしょう」。「この下らぬ野郎をほうり出せ」と歩兵伍長は叫んだ。「伍長さん、あなたは何のために戦ったのですか」と訪問者はたずねた。「それは簡単だよ。ドイツをやっつけなければならなかったんだ」と伍長はいった。




訪問者はいった。「それならあなたの負けですよ。今から5年以内に、あなたは自分の月給からドイツ再建の金を出していることになるでしょう。それから15年間、アメリカはドイツを元通りにするのを助けるために新しい戦争の危険を冒すことになるでしょう」。




兵士たちは笑いに笑った。「アジアの話をしてくれ」と海兵隊員は叫んだ。航空隊の兵士はいった。「ねえ。一体どんなにしてわれわれはジャップが大好きになって中国人と戦う破目に陥るのかい」。そして兵舎はドッと笑いでどよめいた。訪問者は「やはり日本をやっつけるために戦ったというんじゃないだろうね」といった。「他にどんな目的があるというのかい」と曹長は聞き返した。




訪問者はいった。「それではあなたは負けたことになる。今から20年以内に日本を再建することになるだろう。日本は、太平洋で最も親しい友になるだろう。あなたの子供が生まれれば、子供たちに〈ジャップ〉といわずに〈われわれの友人日本人〉と呼ぶようにしつけるだろう」




「とんでもない。ジャップの真珠湾攻撃の汚名は消えないだろう。われわれはそれを保証するために戦ったのだ」
と中央旋回砲手はいった。訪問者はいった。「それではあなたの負けですよ。今から20年以内に、あなた方は真珠湾を覚えていない大きな、不幸な子供たちをもつだろう。しかしこの子供たちは、あなたたちが広島・長崎を爆撃したのこそ不名誉な行為だということになるだろう」




―  特務曹長は大声でほえた。「よし、皆、このファシストのねずみ野郎をつかまえろ」。訪問者は、一群の制服姿の人々の下に見えなくなった。曹長はいった。「このファシスト野郎を情報部へ尋問に連れて行くがいい。こいつは、おそらくアメリカ人の士気をなくそうとする頑強な枢軸国の企みの一味だろう」。


→ ここで訪問者はタイムスリップし1965年の世界に戻った





2.人は知らず、神のみ知る変化



短期的、中期的な政治や経済の変化は、ほぼ、想定内の変化にとどまります。安倍政権が長く続いていることは、安倍さんがまともなことをして、野党がダメすぎで、想定内。消費税10パーセントになったことなども、二回延期して三回目で、想定内です。しかし、歴史的大転換は人々の想定外の事態なのです。大きいから分かり易い、見えやすいのではありません。大きいから分かりにくい、見えにくいのです。





アメリカは、イギリス、ソ連、中国と手を組んでドイツ、日本と戦いました。勝利したら、イギリスとエジプト、インドとの対立でイギリスを見捨て、大英帝国を解体しました。ソ連と対立し冷戦に突入し、中国は共産化され敵対し、朝鮮戦争で戦いました。



反対に、西ドイツと日本を援助し、復興させ、友好的関係をつくりました。戦前、戦中に、アメリカ人の誰も、戦後がこんな世界になるとは想像もしていませんでした。そもそも、戦中は、この戦争に勝てる保証もなく、大統領も軍人も、勝つために必死に戦い、終戦後のことなどほとんど考えませんでした。





それどころか、今の私たちも、この戦前・戦後の変化の大きさをはっきり認識せず、何か、自然の展開のように捉え、その意味を深く考えません。ですから、今、私たちが、第二次大戦前後の変化を浮き彫りにしたこんな記事に、考えさせられ、納得させられるのです。当時、ルーズベルトも、チャーチルも、スターリンも、戦争しているときに、戦後世界の大変化は予想していませんでした。いわんや国民や兵士は、戦うことに精一杯でした。それほど、歴史の大転換の行方は分からないのです。





しかし、彼らは何も分からずに行動していましたが、一人一人が、歴史的大転換を成し遂げるために働いていたことは確かなことです。その働きがなかったら歴史転換もなされませんでした。ですから、無駄な働きはひとつもありません。全ての人の行動には何らかの重要な意義があったのです。「一滴の血も無駄に流されることはない」のが歴史です。





今、世界の大変な変化の中にある私たちが、このような歴史認識から学べることは、現在が、まさに、歴史的大転換の真っただ中にあるということです。そして、遠からず、私たちは、30年前の社会主義の崩壊のような、驚くべき歴史的変化を見ることになるということです。必ず、全体主義の中国は崩壊し、長く世界を牛耳ってきたグローバリスト達も分裂し、力を失うことになります。






3.何故、日本人学者は世界を大きく見ないのか?



国際政治を学んだ人ならば、フレデリック・シューマンの『国際政治』は触れていると思います。しかし、日本において国際政治を論じる人々は、なぜ、あんなに小さく世界を見るのか、不思議でなりません。テレビで中国問題をコメントする国際政治学者の中国分析は、全部ではありませんが、中国は超大国で、GDPの大きさと14億の巨大人口、国連の常任理事国などという、薄っぺらな事実だけを前提に話しているとしか思えないものです。せめて、歴史の目で今の中国を見てもらいたいものです。




アメリカやヨーロッパの識者が中国を見る目は、極めて厳しいものになり、中国がどんな超大国でも、中国共産党との共存は不可能という結論を出しました。それは、大きく多様な観点から中国をみて判断しているからです。





何故、日本人学者は中国共産党の崩壊が分からないのでしょうか。それは、国際政治を小さく見るからです。とかく日本の学問は小さなことにこだわり、大きなものが見えません。それは、思考の根底にある「ことば」の問題が大きいと思います。国際政治も社会科学の一つで「科学」です。日本人が明治に、        「science・サイエンス」を「科学」と翻訳してしまった、言葉の干渉、呪縛が原因だと思います。「science」とは、そもそも、conscience(知ることの全て、良心、善悪の判断力、誠実さ)が原語で、大きく深く世界の本質を知るという意味なのです。





ところが、日本語の「科学」の「科」は、「一定の標準を立てて区分けした一つ一つ」(広辞苑)です。これは全く違います。完全に誤訳で、恐ろしいことに「science」と正反対な意味なのです。世界の様々なことについて「大きく深く知る」ことから「細かく分けて知る」ことに変わってしまいました。日本の学者は、自分の学ぶものを、大きなものを分けた一つと理解し、その一つを細かく研究することに努めます。何でも分けることが好きで、分けられた一つのことに精通した人を専門家として尊びます。





巨視的で、物事の本質を理解し、素晴らしい学者も少なくありませんが、日本の学問の大きな傾向はこのようなものです。特に、NHKなどの「国際政治」の解説などは、正直言って、知性のひらめきを感じ、感動するような意見は、全く期待できません。そんな人の中国観察は、先ほど言った、中国は超大国という認識で、お決まりの見方しか出てきません。





国際政治の専門家ならば、今が、歴史の大きな転換点にあるということを国民に知らせるのが使命なはずです。その転換は全体主義国家の終焉であるとはっきり言うべきです。中国や北朝鮮のような国が崩壊したことは、世界史が多くの事例で教えています。また、彼らは、香港の自由のために戦った市民の心、台湾国民の切実に独立を求める声、韓国の自由革命を目指す人々の思想を知る努力が必要です。なぜなら、彼らこそ、明確に、歴史的大転換の先頭に立っている人々だからです。
                       (永田)