宗教&インテリジェンス(旧harmonyのブログ)

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スイス「民間防衛」の精神

スイスは、永世中立国として、長くヨーロッパでの戦争に巻き込まれることなく、平和を維持しました。スイスが平和を守った国家戦略は「武装中立」です。充実した自己防衛力を持っていたため、第一次、第二次大戦でも、ドイツはスイスに侵攻しなかったのです。今、NATOの壁に守られた、スイスをめぐる国際環境は安全です。近隣に中国や北朝鮮がある日本などよりも、はるかに安全です。しかし、スイスは、すこしも警戒をゆるめません。国民は、徴兵に服し、家々では、有事に備え、銃を所持管理しなければなりません。ここで紹介する、スイス政府が発行した『民間防衛』という書籍は、スイス国民が、なぜ、銃を所持し、徴兵に服さなばければならないかを説明した本で、各家庭に一冊ずつ配布されました。自己防衛の精神を知るうえで、これ以上の本はないでしょう。世界の危険な情勢、何のために自己防衛をするのか、そのために必要な精神、思想は何か、日本国民が、ぜひ学ぶべき内容が満載です。『民間防衛』の最初の部分のなかから、自己防衛の必要性とその精神を示した内容の一部を、抜粋して紹介いたします。今まさに、中国共産党によって、自由と独立を奪われている、香港、ウイグル、チベットなどの人々の惨状を思うとき、同書の内容が、実感をもって迫ってきます。





まえがき 〈前書きは全文引用しました〉


国土の防衛は、わがスイスに昔から伝わっている伝統であり、わが連邦の存在そのものにかかわるものです。そのため、武器をとり得るすべての国民によって組織され、近代戦用に装備された強力な軍のみが、侵略者の意図をくじき得るのであり、それによって、われわれにとって最も大きな財産である自由と独立が保障されるのです。





今日では、戦争は全国民と関係を持っています。国土防衛のために武装し訓練された国民一人一人には、『軍人操典』を与えられますが、『民間防衛』というこの本は、わが国民全部に話しかけるためのものです。この2冊の本は同じ目的を持っています。つまり、どこから来るものであろうとも、あらゆる侵略の試みに対して有効な抵抗を準備するのに役立つということです。





われわれの最も大きな基本的財産は、自由と独立です。これを守るために、われわれは、すべての民間の力と軍事力を一つに合わせなければなりません。しかし、このような侵略に対する抵抗の力というものは、即座にできるものではありません。抵抗の力は、これに参加するすべての人々が、自分に与えられた任務と、それを達成するため各自の持つ手段方法を、理解し、実地に応用できるように訓練して、初めて有効なものとなるのです。そこで致命的な他からの急襲を避けるためには、今日からあらゆる処置をとらねばなりません。





われわれは、脅威に、いま、直面しているわけではありません。この本は危急を告げるものではありません。しかしながら、国民に対して、責任を持つ政府当局の義務は、最悪の事態を予想し、準備することです。軍は、背後の国民の士気がぐらついていては頑張ることができません。その上、近代戦では、戦線はいたるところに生ずるものであり、空からの攻撃があるかと思えば、すぐに他の所が攻撃を受けます。軍の防衛線のはるか後方の都市や農村が侵略者の餌食になることもあります。どの家庭も、防衛に任じる軍の後方に隠れていれば安全だと感じることはできなくなりました。





一方、戦争は武器だけで行われるものではなくなりました。戦争は心理的なものになりました。作戦実施のずっと以前から行われる陰険で周到な宣伝は、国民の抵抗意思をくじくことができます。精神 ー 心がくじけたときに、腕力があったとて何の役に立つでしょうか。反対に、全国民が、決意を固めた指導者のまわりに団結したとき、だれが彼らを屈服させることができましょうか。





民間国土防衛は、まず意識に目ざめることから始まります。われわれは生き抜くことを望むのかどうか。われわれは、財産の基本たる自由と独立を守ることを望むのかどうか。国土の防衛は、もはや軍にだけ頼るわけにはいきません。われわれすべてが新しい任務につくことを要求されています。今からすぐにその準備をせねばなりません。われわれは、老若男女を問わず、この本と関係があるのです。この本は、警告し、相談にのり、教育し、激励します。私どもは、この本が国民に安心を与えることができることを望んでいます。

     スイス連邦法務警察長官 L.フォン・モース.





深く考えてみると



今日のこの世界は、何人の安全も保障していない。戦争は数多く発生しているし、暴力行為はあとを断たない。われわれには危険がないと、あえて断言できる人がいるだろうか。





絶えず変動しているとしか思えない国際情勢を、ことさら劇的に描いてみるのはやめよう。しかし、最小限度言い得ることは、世界が、われわれの望むようには少しもうまくいっていない、ということである。危機は潜在している。恐怖の上に保たれている均衡は、充分に安全を保障してはいない。とかく恒久平和を信じたいものだが、それに向かって進んでいると示してくれるものはない。こうして出てくる結論は、わが国の安全保障は、われわれ軍民の国防努力いかんによって左右される、ということである。





自由と独立は、われわれの財産の中で最も尊いものである。自由と独立は、断じて、与えられるものではない。自由と独立は、絶えず守らなければならない権利であり、ことばや抗議だけでは決して守り得ないものである。手に武器を持って要求して、初めて得られるものである。






理想と現実


もしも国民が、自分の国は守るに値しないという気持ちをもっているならば、国民に対して祖国防衛の決意を要求したところで、とても無理なことは明らかである。





国防はまず精神の問題である。自由と独立を守るためでなければ、どうして戦う必要があろうか。自由と独立こそは、公平と社会正義がみなぎり、秩序が保たれ、そして、人間関係が相互の尊敬によって色どられている社会において、りっぱな生活を保障するものである。





国家の防衛 ー これは、今日、平和な都市の中で、われわれの置かれている真の状態を、雄々しく、かつ、明敏に認識することから始まる。





受諾できない解決方法


平和と自由は、一度それが確保されたからといって、永遠に続くものではない。スイスは、何ら帝国主義的な野心を持たず、領土の征服などを夢みるものでもない。しかし、わが国は、その独立を維持し、みずからつくった制度を守り続けることを望む。そのため力を尽くすことが、わが国当局と国民自身の義務である。軍事的防衛の準備には絶えざる努力を要するが、精神的防衛にも、これに劣らぬ力を注ぐ必要がある。国民各自が、戦争のショックをこうむる覚悟をしておかねばならない。その心の用意なくして不意打ちを受けると、悲劇的な破局を迎えることになってしまう。「わが国では決して戦争はない」と断定するのは軽率であり、結果的には大変な災難をもたらしかねないことになってしまう。




将来のことはわからない


将来われわれに何が起こるかは、だれにもわからない。今、世界は、平和と戦争の間に生きている。あちこちで新しい戦火が燃えあがっており、地球を二分するイデオロギーの潮流は、局地戦争を全面戦争に変えてしまう可能性がある。いかなる根拠のもとに、われわれには戦争の危険などないと主張できるのだろうか。わが国の周辺で、どの国が武器を放棄したか。どこでも軍事費は増大している。世界には、恐るべき核戦争の脅威がのしかかっている。毎朝、新聞がわれわれに思い出させてくれる真実は、残念ながら、以上のようなものである。




全く、われわれに将来何が起こるかは、だれにもわからないのだ。われわれの平和な生活をその手中に握っている超大国が、理性的であり賢明であることを、心から希望する。しかし、希望を確実な事実であるとみることは、常軌を逸した錯誤であろう。そこで、最悪の事態にそなえる覚悟をしておく必要がある。





あらゆる災害


戦争の悲惨な様相は一般に知られている。しかし、まだわれわれの知らない新しい様相もつくり出されるかもしれない。戦争について考えてみよう。— 空を横切る爆撃機、落下して市街を破壊するロケット弾、煙の出ている廃墟を押しつぶす装甲車。 ー  戦争では、もっとひどいことが行われる可能性もある。直接の攻撃を受けなくても、ある国は、放射能のチリを浴びせられるかもしれない。また、その泉、その水が汚染されて、疫病が住民全部に被害を与えることもあり得る。これらについても、よく考えておく必要もある。それも、今日から。






われわれの義務


いずれにせよ、われわれの義務は、被害を最小限に食いとめるために、最悪の事態に備えることである。戦争がなくても、われわれは、恐ろしい災害や重大な危険に脅かされる可能性がある。ダムの破壊や人工湖の崩壊による洪水についても考える必要があるし、また、核実験による大気圏内の放射能の増加についても考えておくべきであろう。




他方、現代の科学技術は、人間の手に実に強大な力をゆだねているので、ちょっとした失敗が、はかり知れない重大な結果をもたらす可能性がある。こうして、たとえば、原子力の平和利用に伴う事故から、一地域全体が放射能で汚染される危険すらあり得るのだ。単に技術の面だけでも、われわれは常に危険にされされている。効果的な防衛方法は、間に合わせにつくるわけにはいかないのだ。





今の世界情勢に焦点を合わせると、どうしても、疫病は武漢ウイルス、ダムの破壊は三峡ダムを考えてしまいます。本来、それらの災厄も、国民が自主的な「民間防衛」の精神で克服すべきものです。2020年に入り、世界は、急速に危険を増しました。中国は、各地で軍事挑発を繰り返し、ついに、「香港国家安全維持法」で、自由世界に挑戦状を突き付けました。世界各国は、共産全体主義から、自由と独立を守るため、自己防衛力強化に努めなければならない情勢になったのです。スイス「民間防衛」の精神は、激動ヨーロッパのなかで、「武装中立」の道を歩んだこの国の歴史が培った、実際に即した指針を示してくれます。自由、民主主義を尊ぶすべての人々に確信と力を与えてくれる内容です。今回は、そのなかのほんの一部を紹介しました。 (永田)