宗教&インテリジェンス(旧harmonyのブログ)

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隠れた宗教・儒教と日・韓・中の未来

1.日・韓・中は「儒教」を共有するという基本認識


特殊という選民思想を捨て、虚心に日本の進むべき道を探ってみましょう。アジアと日本の同質性を考えるとき、「儒教」というキーワードに注目すべきです。日、韓、中三国は、儒教的価値観を共有しています。儒教は、東アジア諸国の今を知り、未来を予測するキーワードにもなり得ます。これは日本の進路を考える上で欠くことのできないものです。





儒教が、韓国と中国、また北朝鮮、台湾も含めてどのような役割を果しているか見てみます。中国と北朝鮮はヨーロッパではすでに崩壊した社会主義を掲げており、体制維持に不安を抱えます。台湾は中国が一国両制方式での統一を呼びかける中で、台湾独立の動きと現状維持の動きが対立しています。韓国と北朝鮮はさらに深刻な分断状況にあります。東アジア近隣諸国は体制問題と国家分断という深刻な不安要素を抱えていますが、これらの国を「内」から支えるものは、意外に、儒教なのです。




2.韓国人を支えるのは宗教信仰



最初は韓国です。この国の共和政治は、1948年の建国以来試練の連続でした。大統領経験者の厳しい運命がそれを象徴しています。12人の歴代大統領は、亡命(李承晩)、暗殺(朴正熙)、自殺(盧武鉉)、3人の逮捕者(全斗煥・盧泰愚・朴槿恵)、3人は家族が逮捕(金泳三・金大中・李明博)など、10人が惨憺たる運命に遭遇するか、近親者が逮捕され、残りの2人(尹潽善・崔圭夏)はクーデターや政変により短命政権で、現在は、文在寅大統領です。文大統領が任期を終えたら、ただで済みそうにありません。





大統領は共和政体の要で、たとえ任を退いた後であっても、その運命は共和制にとって重大な意味を持ちます。法を重んじるアメリカも、ウォーターゲート事件で辞任したニクソン元大統領を許しました。元大統領の運命の暗転は、韓国共和政治の極度の不安定さを示すものと言えます。





しかし韓国は、度重なる政治危機を克服し発展しました。これには。「宗教」の力が大きく貢献していると思います。どのような国家でも、基層を形成するのは国民の価値観と連帯意識です。韓国では宗教が盛んで、キリスト教、仏教、儒教、道教、民族宗教、新宗教、シャーマニズムなど実に多様で、しかも熱心です。これが人々に精神的充足感と宗教共同体を提供し、社会を根底から支え、政治危機を社会不安や国の分裂に拡大させない防波堤の役割を果していると思います。共和制のアメリカが、個人の権利を最大限に容認しながらも分裂を免れたのは、プロテスタンティズムによって人々が連帯していたからだと言われますが、それと事情が似ています。





3.隠れた宗教「儒教」の絶大な影響力



とくに注目すべきは、儒教思想の影響です。韓国で、儒教は「隠れた宗教」と言われます。ヨーロッパのキリスト教も、神を信じない人が半数を数えるなど、弱体になっていますが、キリスト教は隠れた宗教として、人々の心と生活に多大な影響を及ぼしていると指摘されます。




儒教は、特定の教団はなく、その存在は表面には表れにくいのですが、韓国人の思考と人間関係のあり方に絶大な影響を与え、他の宗教も「儒教的 ー 教」(例えば、儒教的仏教)と言うことができるほどです。





儒教道徳の基本である「五倫」は、〈君臣の義、父子の親、夫婦の別、長幼の序、朋友の信〉で、全て人間関係についての徳目です。霊魂の救いを説く他の宗教を信じる人であっても、この徳目は教理と衝突しないため、韓国人の生活意識と人間関係のあり方に反映します。それはイザヤ・ベンダサンが全ての日本人は日本教徒であると指摘した「日本教」と類似した役割を果たすものです。





キリスト教も「儒教的キリスト教」で、クリスチャンであっても長幼の序を守ることや、血族意識は強いものがあり、クリスチャンが「夫婦は所詮他人で、血の繋がったわが子は可愛い」と普通に言ったりします。北朝鮮体制も、社会主義国家であるにもかかわらず権力の世襲が行なわれるなど、体制自体が儒教的血族尊重の伝統を色濃く反映しています。





儒教は血族を軸とする人間関係を重視し、その上下秩序の確立と和睦、社会道徳と政治を強く意識します。韓国人は親族と頻繁に行き来し、友人同士はお互いの冷蔵庫を開けて飲み食いしても構わない家族のような関係になります。そのくらいでないと親しい仲とは言えず、かたちばかりの付き合いは好みません。「冬ソナ」に出演していたパク・ヨンハさんが亡くなった時、兄と慕う人や弟のような友人がいました。年の差がなければ親友ですが、年の差があれば「兄弟」になり、そのような上下の関係を大事にします。





旧盆や旧正月には、儒教式の墓参りと祭祀を行うため、一斉に親族が故郷に集まり「民族大移動」の観を呈します。このように儒教思想は、血族意識を中心に人と人を連帯させる強い力を持っているのです。韓国ドラマの魅力は、人と人との強い家族的繋がりが感じられるところだと思います。 





4.儒教的プリンシプルがこの国に希望をつなげる



韓国人は個人の信条、家族、国家のあり方に対するかなり確固たる意見、プリンシプルを持っていますが、これも儒教思想から来ています。人間中心、その人間の「徳」の有無で、家族、社会を見、政治では権力を持つ者の「徳」を問題にするのです。そこから法律や機構より人間に重きを置く「人治」、あるいは理想としての「徳治」という政治意識が生まれます。





このように、儒教のくに韓国は、歴史のイタズラで、共和制という政体をとるようになってしまいました。本来、日本のような、立憲君主制がふさわしい国家なのです。ですから、こんなに不安定で傷だらけな共和国も世界に例をみません。これだけ見たら、この国に希望はありません。




しかし、徳や仁を中心とする儒教倫理による堅固な価値観と、儒教的な血族の連帯が、国民と社会の精神を支えます。これが韓国人を分裂させず、連帯させているのです。韓国の人々はそれに依拠し、絶望的な共和政治の足かせに苦しみながらも、未来に希望をつなげることができます。




いま、共産主義者の文在寅政権に反対する保守派の人々が、驚くべき政府批判のデモを繰り広げています。中心になっているのはキリスト教徒や仏教徒で、国民的運動に発展しています。これこそ、韓国の宗教パワーの凄まじさで、私たちはそれを目の当たりにしています。そして、この宗教パワーの基層には、全ての韓国人が共有する、隠れた宗教・儒教の教えが存在するのです。                (永田)



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