宗教&インテリジェンス(旧harmonyのブログ)

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習近平は反儒教・異端の皇帝 ー日本は現代版モンゴル帝国にどう対抗するか?ー 

1.儒教は世界で最も成功した保守主義


儒教の影響力は中国人社会では圧倒的です。中国人より日本人の方が、儒教に関する本を読みよく知っているという指摘もありますが、それはどこまでも知識で、中国人にとっての儒教は、あえて本などで学ばなくとも、骨身に染みついている生活信条です。





中国史において、儒教の重要度は、断トツで一位です。儒教は、体制理念として歴代の中華帝国に君臨してきました。その意味は、j.K.フェアバンクが、名著『中国』で次のように、巨視的視点で明確に指摘しています。





儒教はあらゆる保守主義の体系の中で最も成功したものであった。2000年間の大部分、儒教の教義は世界でいちばん大きなこの国において、研究の主要な課題とされた。政治権力の承認が、一人の古い聖人のつくり出した一つの固定した型の思想にもとづいて、中国ほどに長い間なされてきた国は他にない。





2.儒教を復興させた胡錦濤時代



鄧小平が引いた開放政策が進むなかで、社会主義が求心力を失った中国は、着実に儒教を復興させてきました。中国政府は、孔子廟をはじめとする儒教関連施設の改修など、儒教復興の事業を展開する一方、儒教思想を教育、理念政策に組み入れました。





2001年には、共産主義教育の拠点ともいえる中国人民大学構内に孔子像が置かれ、2002年、胡錦濤時代に打ち出した「以人為本(人間本位)」「和諧社会建設」なども、明らかに儒教思想を意識したスローガンでした。





対外的にも儒教を前面に押し立てました。中国政府が支援する海外の中国語教育機関を「孔子学院」と称したのが、それを象徴しています。中国語を教える学校に、宗教家である孔子の名を冠するのは不自然ですが、あえてこう命名したところに、中国の儒教に対する格別な思いが感じ取れます。





北京オリンピック開幕式も、「朋あり、遠方より来たる、また楽しからずや」という『論語』の言葉から始まり、中国が儒教を尊重する国であることを内外に強調しました。中国は将来、社会主義に加え、儒教思想を国家理念に採用する可能性すら考えられていました。胡錦濤時代までは。





3.習近平は儒教復興を止め、唯物共産主義に回帰した



ところが、2012年、習近平政権が立ち、儒教復興を中断し、共産主義・毛沢東崇拝の方向に転換しました。自由と民主主義を求める人々への思想弾圧が厳しさを加え、愛国主義に名を借りた共産党支配の強化が謀られています。





これは、儒教を尊重してきた悠久の中国史において、正道を踏み外した異端行為に外なりません。共産中国の建国とともに、孔子は批判され、非人間的な唯物・共産主義を強要してきました。しかし、共産党は、開放政策をとって、その愚に気づき、儒教を復興させてきました。ところが習近平は、再び儒教に背を向け、共産主義を強調しています。中国が伝統に基づいた平和的方向に進んでいた歴史を逆行させてしまいました。





しかも、一帯一路政策を推進し、経済力をテコに、世界に勢力を拡大しようとし、軍事力で、尖閣列島、南シナ海を奪おうとしています。まさに習近平の中国は現代のモンゴル帝国です。さらに、共産党独裁に対する国民の不満を外に向けようと、反日を扇動しています。このような習近平が政権の座にあるかぎり、中国は正常な方向にむかうことはできません。





4.中国共産党は、反儒教・共産回帰で、「大中華圏」から孤立



反儒教・共産主義回帰は、中共が、香港、台湾、シンガポール、そして世界の華僑を総称する「大中華圏」から、決定的に孤立することになりました。なぜなら、「大中華圏」の人々の思想の核心は儒教だからです。台湾は道教、香港は仏教が優勢な所ですが、やはり儒教思想は人々の生活に深く浸透しており、シンガポールや世界の華僑も、儒教の影響を強く受けています。世界の何処にいても、中国人である限り、孔子を尊敬し、その教えを尊重するのが普通です。大中華圏とは、儒教がもつ秩序形成力が集団を統合させている「儒教が支える共同体」といえるのです。





習近平は、「大中華圏」の結集を声高に叫んでいましたが、出発点の香港では、歴史的な反中国デモがつづき、台湾は、反中国・独立の機運が高まっています。いまや、中共の「大中華圏構想」は夢の彼方に消えてしまいました。「大中華圏」は共産主義などではつくれないのです。中華民族の大連合体を構築するためには、隠れた宗教である儒教の力を基礎にしなければなりません。





5.日本人にとって儒教とは、また、習近平・反儒教政権にどう対抗するか?



日本も、思想や生活の様々な面で儒教の影響は強いのです。加地伸行氏は『儒教とは何か』のなかで、私達が仏教的だと思っている位牌は、儒教の影響によってできたもので、葬儀の方法や墓参りなども、儒教思想の影響が強いと論じています。





新渡戸稲造は『武士道』で、「孔孟の書は青少年の主要なる教科書であり、また大人の間における議論の最高権威であった」と幕末、明治初期において儒教を重んじる風土を強調しました。





江戸時代、保科正之、池田光政、前田綱紀など、名君のほとんどは儒学徒でした。また、テレビドラマ「水戸黄門」は40年ものあいだ人気を博しましたが、光圀が儒教を篤く信奉した人だったことはあまり知られていません。歴史ドラマに仏教や僧侶は頻繁に現れますが、儒教や儒学者はほとんど現れません。戦後の日本人は、自分達の歴史や文化から儒教を排除してしまいました。





韓国や中国とは受容レベルの差はありますが、日本も江戸時代、儒教から多大な思想的影響を受けました。現在も書店には儒教関係の本が並んでおり、私達の関心は高いのです。仏教も東アジアに根付いた宗教ですが、仏教だけでは中国人や韓国人の思想を理解するには不十分です。日・中・韓の三国は、ともに「孔子の教え」を共有しているという事実を知ることが肝心です。





今日、中国、台湾、香港など「大中華圏」で起こっている重大事態の深層を理解するためには「儒教」を知らねばなりません。中国史の深層から見れば、今の中国は、儒教を復興させてきた94歳の江沢民や77歳の胡錦涛などの長老たちに対し、共産主義を復興させている67歳の習近平が挑戦していると見ることもできます。儒教と共産主義、孔子とマルクスの戦いです。





香港でデモをする青年も、台湾の独立を叫ぶ人々も、心の根っこになるものは儒教です。中国が再び儒教復興をめざすようになると予想することは、伝統的中国思想に基づいた、正確な中国認識になると思います。また、中国人や韓国人と付き合うためには、常に「儒教」を念頭に置かなければなりません。なぜなら、儒教の影響は人間関係に最も強くあらわれます。ですから「儒教」をしっかり押さえれば、彼らに対し、堂々と主張ができ、共感を得ることができるのです。 (永田)


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