宗教&インテリジェンス(旧harmonyのブログ)

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アトムより鬼太郎が残った意味

水木しげるロード


鳥取県の境港には、「水木しげるロード」があります。2015年に亡くなった境港出身のマンガ家、水木しげる氏の、妖怪キャラクターのブロンズ像153体をはじめ、水木しげる記念館や妖怪グッズ専門店などが集まる「異界の通り」です。境港は、妖怪を観光資源にし、全国から多くの見物客が集まる一大テーマパークに変貌しました。





妖怪は、自然のいたるところに霊的存在が潜むと考える、日本人独特の宗教心が生んだものです。外国にはこんな多彩で個性豊かな妖怪はいません。古来より、妖怪は人を喰うような恐ろしい存在と思われてきました。ところが、江戸時代後期に、浮世絵師がユニークで滑稽な妖怪を描くようになり、イメージが一変し、芝居や漫才などでも取り上げられ、妖怪ブームが起こったのです。戦後、巨匠水木しげるが、さらに豊かなキャラクターを生みだし、妖怪をメジャーな存在に押し上げました。





現代の妖怪マニアは、妖怪が存在するなどとは思っていません。妖怪研究家を自認する多田克己氏は、「妖怪にまつわる民間信仰、口承、歴史背景、自然科学は研究できても、肝心の妖怪そのものは研究できません」と指摘します。妖怪はいませんが、妖怪たちを「存在させている」日本独特の妖怪文化は多様性に富み厖大なのです。





京極夏彦氏は、宇宙人と妖怪を比較し、「―まあ宇宙人の場合、〈いないな〉と思っちゃったら終わりでしょう。妖怪はいなくて当然なんだから、強いですよ。だって、妖怪否定論者って会ったことないもん。たとえば、大槻教授だって、妖怪は否定しないと思うよ。まあ、鬼火はプラズマだという主張に対しても〈プラズマのことを妖怪方面では鬼火って言うんですよ〉って返せばいいだけだし」と言っています。





妖怪は癒しキャラ


東日本大震災の年、劇団四季が東北地方でおこなったボランティア演劇巡演のテーマは、「ユタと不思議な仲間たち」です。お父さんをなくし、東京から東北に引っ越してきたユタという転校生が、学友からいじめられ一人悩みます。ユタと友達になり、なぐさめ力づけたのは、妖怪である5人の「座敷わらし」です。この心優しい座敷わらし達は、江戸時代、飢饉のため、生まれてすぐに間引きされ殺された、不幸な子供たちの化身です。






ユタを助けてあげた座敷わらし等は、震災で悲しみに暮れる東北の子供たちもなぐさめ、力を与えたのです。今日、日本人にとって妖怪は恐ろしいものではなく、人間臭く、ユニークで愛嬌がある「癒しキャラ」とも言える存在です。





今は、ロボット技術や人工知能が進歩し、宇宙開発も進んでいます。そんな時代の趨勢を考えると、ロボットや宇宙人など未来系キャラが人気をよび、妖怪は後退すると思うのが自然でしょうが、妖怪ウォッチがヒットするなど、新たな展開を遂げています。21世紀になり、「科学の子」として長くスーパースターの座にあったアトムより、墓場で生まれ、ちゃんちゃんこを着た「妖怪の子」鬼太郎が、何度もテレビでリバイバル放映され、頻繁に私たちの目に触れる現実は、奇異であるとともに驚くべきことです。





科学の発展により、人は安楽な生活を営むようになりましたが、科学のもつ恐ろしい力にも気づきました。また個人の能力を越え、どんどん進歩、変化する社会は、人々から人間性を置き忘れさせます。





現代人は、妖怪という、科学と対極にある「人間臭い」存在を友だちにすることによって、人間性と土着性を取り戻そうとしているようです。今日、日本文化が国際的に注目され発信されていますが、「YO-KAI」が、世界で歓迎される時代が訪れるかも知れません。