宗教&インテリジェンス(旧harmonyのブログ)

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バビロンに留まったユダヤ人・サッスーン家の数奇な運命

エルサレムに帰らず、バビロンにのこったサッスーン家



中東問題などで、テレビのコメンテーターとしても活躍しておられる、放送大学名誉教授、高橋和夫氏の講義のなかに興味深い内容があります。紀元前537年ごろ、ユダヤ人は、ペルシャのクロス王によってバビロン捕囚から解放され、エルサレムに帰還しました。しかし、当時のバビロンは先進都市、反対にエルサレムは後進地帯なので、バビロンに留まったユダヤ人も少なくありませんでした。





そのため、当時のユダヤ人は、バビロンに大きな共同体を持つようになりました。その後、バビロンは衰え、バグダットが栄えたので、彼らも移り住みました。時代は移り、近代の19世紀から、イギリスがインドに勢力を拡大したので、彼らのなかの、サッスーン家(Sassoon)は、イギリスと手を結び、成功への道を上ってゆきます。





サッスーン家は、イギリスのインド支配の拠点ボンベイ (現ムンバイ)でビジネスを成功させ、イギリスが中国に進出するや、中国でもますます事業を発展させます。彼らは、上海に和平ホテル(サッスーンハウス)を建て、その部下であった、ユダヤ人のカドーリという人物は、香港に有名なペニンシュラホテルを建てました。





そして、2007年には東京・有楽町に、カドーリの子孫が、「ザ・ペニンシュラ東京」という、超豪華・五つ星ホテルをオープンします。高橋名誉教授は、「ザ・ペニンシュラ東京」の歴史を辿れば、中国 → インド  → 、そしてバビロンに留まったユダヤ人に行きつくと述べました。(ちなみに、「ザ・ペニンシュラ東京」はアメリカの『トラべル&レジャー』誌の「ワールドベストアワード」において、2年連続で東京のホテル1位を獲得しました)





サッスーン家の汚れた大成功



ここからは私の補足です。サッスーン家は、同じユダヤにルーツをもつロスチャイルド家とも手を組み、両家は姻戚関係を通じ、強固に結びつきました。また、どんな事業で成功したかと言うと、アヘン貿易でした。サッスーン家はイギリス政府から、インドで栽培したアヘンの専売権を与えられ、それを中国に輸出し、反対に銀を手に入れイギリスに売りました。また、紅茶の総元締めでもありました。まさに、世界を股にかけた巨大ビジネスを展開しました。






アヘン戦争でイギリスが勝利し、事業はさらに拡大します。この、人類史上、希に見る悪質で汚い戦争の影の主役は、サッスーン家だったのです。欧米の中国侵略の拠点である上海は、サッスーンやロスチャイルドというユダヤ系財閥の天下で、戦前、上海には5000人ものユダヤ人が働いていたといいます。特に、三代目のビクター・サッスーン(1881-1961)は、「上海キング」と呼ばれ、金融、不動産、交通、食品、重機械製造にまで事業をひろげ、サッスーン財閥の最盛期を現出させました。






1500年も前、バビロン捕囚の後に、聖書の歴史から完全に外された、バビロン残留ユダヤ人一族が、現代になり、世界有数の財閥に成長し、人類史の表舞台に登場したのです。







一方、サッスーン家の変遷は、ユダヤ・キリスト教の本質問題も考えさせます。聖書の正統信仰に立つならば、エルサレムとは、神がユダヤ人をエジプトの奴隷状態から解放し、自身の民として導き、子々孫々に与えた尊い「約束の地」です。神との契約に忠実なユダヤ人であるならば、バビロン捕囚から解放されたら、エルサレムに戻るのが正しい信仰的選択なのです。






しかし、当時のバビロンは先進地域で、安楽な生活ができ、エルサレムは後進地域で、大変な苦労が待っていました。サッスーン家などは、財産があり、生活上のしがらみがあったのかも知れません。すなわち、信仰的価値に従った人々はエルサレムに帰還し、現実的価値に従った人々はバビロンにのこったのです。





現代ユダヤのふたつの集団



現在、ユダヤ人はふたつに分けられます。ナショナリスト(愛国)ユダヤと、グローバリスト(国際)ユダヤです。ナショナリスト・ユダヤは、イスラエルという「神の約束の地」に強い愛着を持ち、どんな苦難や危険があってもイスラエルを守ろうとする人々です。






一方、グローバリスト・ユダヤは、海外に居住し、国家に献身するよりも、グローバルビジネスで巨富を蓄えようとする、強欲資本主義のリーダーたちです。彼らを代表するのがまさに、アヘン売買に手を染め、巨富を築いたサッスーン家です。






ユダヤ教・キリスト教の信仰的観点から、現代のユダヤ人と、バビロン捕囚時のユダヤ人を比較整理すると、〈ナショナリスト・ユダヤ=エルサレムに帰還したユダヤ人〉、〈グローバル・ユダヤ=バビロンにのこったユダヤ人〉という図式ができあがります。





反グローバリズムの運動は、2016年のイギリスのEU離脱(ブレグジット)、2017年のトランプ大統領誕生によって、世界規模で開始されました。人類は長く、グローバリズムが最良のものと考えてきました。グローバリズムは圧倒的な趨勢で、それに疑問をはさむ者など、愚か者として相手にされませんでした。しかし、急激で徹底した世界のグローバリゼーションによって、人々の貧富の差が極端に拡大する不幸な世界が現出し、今や、それを解決しなければならない時代が始まりました。






まさに、「歴史は小説より奇なり」です。トランプ大統領の登場によって、素朴に国を愛し、宗教を信じ、利他的に生きようとするナショナリストの時代が到来しました。ユダヤの歴史から言えば、エルサレムに帰還し、苦労して「約束の地」を開拓し、その地に生き、自国を純粋に愛するような人々が、日の目をみる時代が到来したのです。すなわち、21世紀の世界は、サッスーン家のように、金と物質に心を売った人々でなく、素朴な信仰・心を持った人々が主流になる時代です。人類史が正道に回帰しようとしているのです。






このようなユダヤ人の歴史をみれば、グローバリズム清算というものが単なる経済現象でなく、人間の精神という、根本的問題にかかわるものだと気づかされます。また、今起きている反グローバリズムの動きが、実に、数千年におよぶ歴史的背景があるということも理解できます。